Raymar Kirill (キリル)のレビュー

2021年7月3日

前回までは雨の日向けなオススメ靴をご紹介してきましたが、今回から新章突入(笑)

自分の肝入り素材の靴を紹介していきたいと思います。

以前ご紹介したClaphamで使用されているユタカーフやAldenのホーウィン社シェルコードバンのように、世の中には特徴的な顔を持つ素材が幾つもあります。

肌理の細かい滑らかなカーフのスムース素材ももちろん良いのですが、このような主張のある革を用いた靴はまた違った魅力を放っていますので是非見て頂けたらと思います。

今回はこちら。

通常は厚紙の靴箱ですが、フラッグシップモデルの為、豪華な桐箱です。

Raymar Kirill(キリル)です。

Raymar(レイマー)とはいま靴好きの方々を中心に人気急上昇中の日本のブランドです。

静岡県焼津市にあるサンレイというシューメイカーの自社ブランドになります。

長年アパレルブランド靴のOEM生産を手掛けて培ったノウハウを結集して誕生したのがこのRaymarです。

特徴は世界の名立たるブランド革を用いて九分仕立てのハンドソーンウェルテッド製法で作られ、ヒドゥンチャネル、ピッチドヒールなど高級靴で用いられる意匠も盛り込まれつつ2~3万円台で手に入ってしまう最強コスパなのです。

生産を中国で行うことでコストを抑えていらっしゃいますが、長年一緒にやられている中国の工場の職人さん達の高い技術力がベースにあることで低価格ながら非常に精巧な靴に仕上がっています。

海外の有名シューメイカーなら間違いなく10万円オーバーな靴達ですよ。。。

キリルはそんなレイマーのフラッグシップモデルになります。

それではオススメポイントを紹介していきたいと思います。

①伝説のロシアンカーフを再現したベイカーズロシアン

エンボスレザーの所がベイカーズロシアンです。

まず最初に触れたいのが素材です。

この靴には2種類の素材が用いられており、全体的にはフランスのAnnonay(アノネイ)社のVocalou(ボカルー)という高級紳士靴ではおなじみの上等なボックスカーフとなっており、トゥキャップや踵など部分的にはブライドルレザーで有名なイギリスのJ.&F.J.Baker(ベイカー社)のロシアンカーフとなっています。

オリジナルのロシアンカーフの説明はこちらから。

このロシアンカーフの復元はトップメゾンからの要望もあり、幾つかのタンナーで研究開発が行われ、数種類のものが市場に出回っています。

このベイカー社のロシアンカーフもオリジナルをできるだけ忠実に再現する為に過去の文献や資料を調べ、現存するオリジナルのロシアンカーフを分析・研究して作られました。

白樺と柳、樫の3種類の樹皮のタンニンで鞣し、裏面からバーチオイルを浸み込ませ、表面にはクロスハッチ(網目)模様が型押しされ、まさにオリジナルと比べても遜色のない素晴らしい革として復刻されました。

ちなみにロシアンカーフはトナカイの原皮のものが有名ですが、牛革のものも存在しており、このベイカー社の復刻革も牛革で復刻されています。

このような特徴の革ですが、靴のアッパー全体に用いるとそれはそれでかっこ良いのですが、ややカジュアルな印象に見えてしまう為、この靴のように部分的に用いることによって、よりドレッシー且つ立体感のある表情の見た目になります。

部分的に用い入る事でコストも下げれますし(この革は非常に高価)、見た目としても良いし、レイマーさんのセンスの良さを感じます。

もちろん靴自体からバーチオイル独特の燻製のようなウイスキーのような?芳香を放っており、その点からも只ならぬ雰囲気を纏っております。

②九分仕立てハンドソーンウェルテッド製法の履き心地

踏まず部のアーチ、えぐりも美しいラインです。

グッドイヤーウェルテッドと違いこの九分仕立てというものはビスポーク靴の製作工程を既成靴に落とし込んだ製法です。その名の通り工程の9割を職人が手作業で作り込んでいます。釣り込み(アッパーを木型にかぶせ、立体的に成型していく作業)や中底の加工(ウェルトをすくい縫いで取り付けていく為の溝堀りや木型底面の形状に沿わせ立体的に仕上げる加工)などフィッテイングに大きく関わる工程を人の手で仕上げ、以降のアウトソールを縫い付けていく工程をマシンで仕上げております。

九分仕立てで作られた靴は、一般的に流通しているグッドイヤーウェルテッド製法の靴に比べてシルエットが良く、堅牢で足馴染みも良い仕上がりになっています。

というのもアッパーは手釣りでより木型にフィットした形で成形され、尚且つ底付け時に一目一目を手で縫い付けていく事により、成形されたアッパーが再度締まり、中底も立体成形されている為より足なりにフィットし、グッドイヤー製法で一般的に用いるリブテープというパーツを使用しない分、ソールの返りが良くなり、ソール内部の隙間を埋める中物(コルク)の量も最小限で済む為、履き込んで後のコルクの沈みが少ない為、最初から足にフィットした形で履き込んで、より足に馴染ませていく事ができます。

③底の意匠、ヒドゥンチャネル・半カラス・ピッチドヒール

こちらもビスポークや高級既成靴に用いられる手法(=手間の掛かる手法)が用いられています。

まずヒドゥンチャネルですが、伏せ縫いと言われるもので、アウトソールを縫い付ける糸が底面に直接出ないようアウトソールの側面(コバ)から革包丁で切れ込みを入れ、その中に溝を掘って本体と底を縫い付け、再度接着剤で閉じるといった大変面倒くさい作りです。

外側に糸が出ない分、歩行で摩耗することがなく、見た目としてもすっきりとしています。

続いて半カラス仕上げです。

靴にとって黒は特別な色で、アッパーはもちろんソールも黒というのが最もフォーマルとされています。

ただ底が黒いと大理石の床や絨毯を汚してしまうので地面に付かないウエスト部分だけを黒くしたのが始まりらしいです。

ただ見た目としてもメリハリがあって締まって見える美しさから普及していったみたいです。

こちらもやはり黒のインキの塗り分けを如何にきれいに見せるかがポイントなので非常に神経を使う手法です。

最後にピッチドヒールです。

通常ですとヒール部分はまっすぐ下に落ちる形状ですが、ピッチドヒールは若干えぐれながら落ちていく形状となっています。

先細りにする為、すっきりとしたフォルムが美しく、エレガントな見た目になります。

まっすぐにヒールを成形するよりも角度を計算しながら両足の形状も揃えなければいけないので非常に高い技術が要されます。

その他にもアッパーのシューレースを通す穴には見えないように裏から補強のハトメ(裏ハトメ)がされていたり。

アウトソールのコバにはコテで熱しながら形をキメていく縁焼き加工などもされており、本当に手の込んだ仕上がりになっています。

④ぜひ最強コスパの本格靴Raymarのお試しを。

jacket:mando tops:john smedley neckerchief:fiorio bottoms:incotex belt:j&m davidson bag:furla

今回は素材軸だったのでキリルを紹介しましたが、一度買うとそのコスパの良さから何足も欲しくなるのがレイマーの恐ろしさ(笑)

公式ブログではコンスタントに新商品の紹介などがされており、レイマーファンの方々との交流がされています。

内容も私のブログなんかよりも100万倍面白いので是非見てみて下さい(笑)

このようにメーカー側とお客さんの距離が非常に近く、一緒にレイマーというブランドを作り上げている事が、他ブランドと一線を画す、最大の魅力ではないでしょうか。

現在はたまに行われる催事を除き、ヤフーショッピングからのみ購入できるようです。

催事では直接試履きしてフィッティングを確認できますが、通販でもアシーレというビニールで作成した仮アッパーを無料で試せる為、そのラストのサイズ感を確認でき、かなり正確なフィッティングで購入に望めます。

爪先部が透明になっているので捨て寸や指の位置なども視認できます。非常によく考えられた仮アッパーです。

人気型は販売数時間で主サイズが完売するなど、非常に勢いのあるブランドです。

オススメです。